タシギの完全マスターへの入門

タシギを完全にJIZZで分かる、そしてタシギでは無いと判断する力量を習得する。
 Birdopia Gallinavi 2022.07.05
Golden Snipe Gallinago Aurum  キンジシギ 黄金地鴫
 ジシギは識別が難しいからいつも中途半端になってしまう。なかなかどうやって始めれば良いのか分からない、などいろいろな理由があると思います。ジシギを知りたい、更にはタシギをタシギと認識したい、という基本的な事をどうやったら習得できるかを筆者の経験を基にいろいろな例を参考にして解説します。そこからタシギをタシギと理解できるまで、JIZZにより直感的に、いちいち識別点はあーだから、こうだから、と説明しなくとも、勿論説明はできるように識別能力は習得している筈です。そういう野外観察の目の着けどころを解説します。それをヒントにしてこれから、或いは既にある程度経験があり、更にレベルアップしたいという方には参考になると思います。ベテランの方はそういう観方もあるのかくらいの参考にはなると思います。つまりこうすれば成れるのは自分自身がきっちりと学習して野外から新しいことを習得できればタシギ・マスターは卒業です。そしてその気になれば次のステップに進みます。さあオオジシギ、チュウジシギ、アオシギ、ハリオシギをどうやって探して観たらジシギ・マスターは卒業になるでしょうか。
 

タシギ識別完全マスター入門

 

以下は筆者の観察例を参考に何を学び習得するかを自分自身が決める。最終目標はJIZZでタシギが分かり、タシギでは無い事を習得する。

 

ジシギを始めれば必ず通る場所、それはタシギから始まります。写真図鑑やイラスト図鑑などお気に入りを23冊を隅々まで読み込む、興味ある所だけでは無く、序文の後の用語解説や部位解説は100%理解して記憶します。これからジシギをマスターするには最小限必要な用語になります。初めはこんな細かな異なる所まで、と思えるかも知れませんが、識別を学習し始めると、どうしても部位を表す事が多くなります。イラスト図解をただ見ていると眠くなってしまいます。誰もが初めはそうだと思います。時には広告用紙の裏面、白紙などを利用して鉛筆で模写してみると分かり易いかも知れません、上手に描くならスケッチブックや百均などの文房具を利用します。顔を描いたり、体形を描いたりすると、種の特徴が解ります。肩羽のラインを二本描く、最下段の肩羽は後方に斜めに流れる。良く見ると、肩羽の外側羽縁が太い、これが連なり線状に見える。タシギだけは他のジシギとは全く異なるので肩羽の一枚一枚の連なり、枚数まで記憶します。これがタシギ識別の第一歩です。図鑑の画像は制限が有ります、ネットから正確な情報を選んで、肩羽の外弁、内弁を羽縁の太さを比較して見ると分かります。タシギは外側、外弁が太く、内側、内弁は細いです。ここを絶対に理解します。他のジシギは内、外、共に同じです。羽縁の色は内はやや薄く、外側はやや濃いのが普通ですが、個体差がとても多いので、初めは別種かと迷う筈です。春夏秋冬と幼鳥、成鳥、冬羽、夏羽などにより千差万別である事を知りましょう。沢山の個体数を観察すると、変化の範囲が解るようになる。その変化でもタシギと解るようになればマスターという称号はあなた自身でつけられるのです。

観察は採食して居る所をある程度の距離から警戒しないようにして観察します。近ければ10倍程度の双眼鏡で、距離があれば2030倍程度の接眼付き望遠鏡が適当です、望遠鏡のサイズで三脚を選びます。風で倒れないような大きさと重さが必要です。暴風なら観察不適ですから、日を改めましょう。

採食行動を観察すると嘴を垂直に素早く上下に差し込んで餌を捕食する。動かす行動はミシンのように、と海外の図鑑には書かれている。獲物を捕食した瞬間に動きは一時停止、咥えた獲物がイトミミズのようです、ゆっくりと持ち上げて泥地から持ち上がると、あっという間に呑みこんでしまいます。この行動が繰り返されます。自分の眼で確かめてみましょう。時にはドジョウやザリガニ幼生、エビ、ヤゴなどの水棲生物を捕食するのがわかります。画像や動画があればより情報が正確でそれが新しい発見に繋がるかも知れません。清州幸保著野鳥の事典には植物の種子なども食べている。タデ類や稲科植物の種子など。

採食行動を観察していると、いろいろな行動を観る事があります。タシギは水辺の鳥、採食する側には必ず水がある。水を飲んだり、汚れた嘴の泥を洗い流したり、足指で拭ったりします。時には羽繕いをします。どこの羽をどの様に手入れするか観察します。突然水浴が始まります、水の中に身体を沈め翼で水を被ります、何度か繰り返す、羽ばたき、水を切ります。その場でも、ちょっと移動して岸辺などでゆっくり手入れが始まります。尾羽の付け根には油脂腺という器官があり、ここから油脂を出し嘴につけて羽毛にコーティングします。これは防水性をアップする為の行動で鳥たちにはとても大切な行動のひとつです。真冬でも羽毛の手入れは欠かさない。この行動ではいろいろな識別ポイントが観られます。羽ばたきや翼の伸びなどにより翼下面が見られる、タシギは他のジシギとは異なり下面は淡色部が多く白く見える。他のジシギは暗色に見える。翼を開くと後縁が見える、裏面も表面でも、次列風切り後縁がハッキリ白帯になって見える。これもタシギだけで他のジシギはほとんど目立たない。タシギが羽ばたきや飛翔時には次列後縁の白帯を確認、目視や双眼鏡で確認する。観る角度では不明瞭な場合もあるから、正確にチェックしましょう。羽繕い行動では尾羽の手入れをすることがある。尾羽を全開にして太陽に当て乾かす、日光浴などもある。ここでは尾羽を観察できれば最高です。何らかに驚き、警戒などで一瞬尾羽を立てて開きますがほんの一瞬です。初めて観たら、絶対に撮れないと思いますが、慣れてくると、その瞬間が予測可能になる。そこまでの到達は個人差やチャンスが無いと駄目です。数多くフィールド観察を続ければ必ずその時が来ます。より難しい、チュウジシギ、オオジシギ、ハリオシギの尾羽、外側尾羽を観る、撮るのは10倍、100倍の時間がかかります。

さあ、一歩前進させましょう。

タシギ識別のポイントを整理します。

1、翼下面は淡色、白ぽく見える

2、次列後縁白帯明瞭

3、肩羽羽縁の内外の太さの違い

4、尾羽は1214枚、最外側尾羽は淡色で全部がほぼ等幅

4、は絶対的識別点であり、これで他ジシギと識別可能。

13は相対的であり、変化があり得るから念の為には2点或いは3点を合わせれば技あり一本です。

この他には過眼線の目先では嘴基部では太い、眉斑は過眼線より細い。個体差が多くありいろいろな変異を習得してタシギかそうでは無いか分かるまでチャレンジします。

 

タシギは58月を除いた8ケ月間は観察できます。つまり、94月は観察できるのです。いろいろな季節にいろいろな個体と出会いましょう。

 

次は飛翔形について、春秋の渡りと越冬期での標準的な飛翔についての観察です。

 

高速での飛び立ちや地鳴きなどと羽ばたき、翼動の速さ、ジグザグ飛翔などはどんな図鑑でも解説している。タシギの飛翔は他と比べる基本となるから必ず習得する必要がある。これが分からないと他のジシギは分からない。

 

春秋では基本的に移動、渡りが目的です。フィールドでは地上に居る個体を見つけるより早く、飛び立つのが早いからそこにいた、と言う事になる。群れで居ると、少数ずつ何度も飛び立つ、23度と飛び立つ。その際にはジェーッとハスキーな声で鳴く。一回或いは複数回鳴く事もある、更には飛びながらも鳴き交わす事がある。飛び立ちは高速で身体を左右に反転させながら遠ざかる。高度を上げ、旋回を始めると、雲が多いとタシギの翼下面は雲に溶け込んでしまい、擬態している感覚になる、しばしば見失う事になる。翼上面、翼下面、お腹、次列後縁白帯など確認する。翼動、速度、ジグザグ、反転、地鳴き、鳴き交わし、旋回、飛び去る、見失う、いろいろな事は全て基本になるから、頭の中のAIに記録する。見失ったと思いながら歩いていると、フィールド内上空に旋回する群れが戻る、そしてフィールド内に着地する。彼らは何処でも良いのでは無い、できれば鳥友が先に降りて居る場所を優先的に選ぶ。何故なら彼らは臆病で警戒心がとても強いから、安心安全な場所を選択する。鳥友、仲間が居れば餌も安心も同時に得られるから。一方では全てが飛んだと思いながら歩いていると稲株のあいだに伏せて擬態するタシギが居る。よほどの理由が無ければ人に気が付き、警戒している。警戒していつでも飛び立つ体勢にある。観察者が急な動きをしなければタシギはそのまま、しかし警戒が増加すれば、飛び立つか走って隠れてしまう。隠れたら再発見はほぼ不可能。ここでは観察はできない。警戒して伏せて擬態している場合は観察者は一旦その場を離れる、そして510分後に再び覗いて見る、緊張状態は解かれて、隠れてはいけるが、見えている。少し観察、どんな個体なのかなどは確認できる。ほとんどの場合は飛び立った後には居ないのが普通。稀には残る、鈍感な個体が居る。

 

次は越冬期のタシギの飛翔について

 

越冬地ではタシギは縄張りは形成するか否かは未だ結論を得られて無い。餌が豊富なら集団採食は可能であり、集団行動も可能と思う。筆者のフィールドでは厳冬期には、大河江戸川干潟に数羽、56羽が同時に採食していた。しかし、小さな水路では稀に23羽で行動する事はあるが、通常は単独行動である。当地ではタシギと一緒に行動するクサシギは何度も観察されている。クサシギもタシギに劣らず警戒心は強く、なかなか人を寄せ付けない。共に共生関係と思われるがクサシギはタシギが捕食した大物餌に手こずっている間に餌を横取りしてさっさと呑み込んでしまう。初めは偶然と思ったが、同様な行動を2回観察、撮影している。これは偶然では無い、明らかにクサシギが初めから狙っている、と確信している。タシギは獲物を取り返す事も無く、何事も無かった様に採食を続ける。タシギの側に居るのはハクセキレイなどであるが、側に近づいても威嚇したり追い出す行動は観られない。南西諸島で側にイソシギが近づいた、するとタシギは長い嘴を伸ばして威嚇したように見えたことがある。タシギより小さい鳥をそうそう居ないから、相手を威嚇する行動は観ることは少ない。クサシギは着かず離れずタシギを監視しなが採食を続ける。

 

タシギが飛んだ、何かに驚いて、しかし遠くに飛び去る事は少なくて目視可能な距離で着地する。再び水路や近くの田圃の枯れ草や耕作田などに降りる。降りた場所が分かる場合にはゆっくり近づいて探し見る。30メートル位なら双眼鏡で着地後の行動か観られる事がある。着地したら、その場から速足で枯れ草などに隠れるのが普通の行動、時にはその場に留まり地面に伏せる、立ったままと言うのはかなり珍しい。その場を双眼鏡で覗く、地面は黒く稲藁はバフ色、タシギが座ると保護色、擬態そのものになる。近くでも見つからない事の方が多い。耕作田は均一で目標が定まらない、もしタシギを見つけたら、延長線に何らかの目標を作るのが見失わないコツだと思う。タシギは擬態して自信があるから絶対に動かない、観察者が近くにタシギが擬態しているのに気がつかないで不用意に接近し過ぎて飛ばしてしまうのが常である。タシギの枯れ草への擬態、耕作田への擬態などその場の自然環境や場合によっては人工物なども利用している。タシギは日影に居る事が多い、直射日光下ではハッキリと身体が丸見えになる、しかし北側斜面は通常日影になる、東西に流れる小さな水路で採食するタシギは餌の多い場所で採食する、人か現れるとタシギは決まって南側にへばりつく、これは明らかに日影を選んだのである。北側は日が当たり明るい、南側は日影で暗い、へばり着いたタシギは良く観ないと分からない。タシギはその事を十分に理解している。ある日の厳冬期に南北に流れる水路にタシギが採食していた。フェンス越しに覗いたら感づかれた、タシギはどうしたか、日差しは全面に照らしている。一本の電柱が立つ、水路に電柱の影が斜めにある、タシギは狭い影に入り出ようとはせずに静止した。明らかに日影の擬態です。その場を離れて観察するとタシギは日向にでて採食を始めた。水路には橋が沢山ある、そんな日影はタシギだけでは無い、コサギ、ゴイサギなどが明らかに橋下の日影をいろいろな目的を持って利用している。上空からの猛禽類対策などが考えられる。

 

タシギの個体変異について

 

色彩変化は個体による変化だがタシギは標準的には茶褐色であるが、部位ごとに微妙に変化が大きい。幼鳥と成鳥、夏羽と冬羽、幼鳥から第一回目冬羽への換羽は早い遅い、段階の違いで新しい羽毛は新鮮で綺麗だが、経過した羽毛は退色、摩耗、脱落などにより見た目の印象はかなり変化する。幼鳥幼羽を理解して正しい評価をすれば間違いは無いが、時には

見間違いや判断ミスがある、しかし、何度かミスを重ねるとそれが明らかに解るように進化している。勘違いは無いか少ない方が良いのは当たり前。しかしそれは通過点のひとつです。ちょっとしたことが大進歩へ繋がるから大丈夫です。ミスに気がついたら、削除では無く、罫線で、残す、日付を付す、すると進歩の跡がハッキリと見える。

 

羽毛の変化と同時にプロポーションの変化は種の違いに発展しまう恐れがある。

部位の模様とも思える線などの太さ、細さ、長さ、短さ、大きさ、小ささ、は本当に幅が広い、それらに惑わされる事無く、正しく評価する力量が試される。それが分からないと、タシギ、タシギでは無い、と結論は出ない。

 

図鑑だけでは進歩は足りないから、野外観察からの得られる事はです。答えは数多く有ります。野外からしか学べない事は多いから、どこから学んでも卒業は無い。だから楽しい。自分だけの経験やエピソードにまとまるほど大量になると更に楽しさ倍増する。

 

タシギの擬態について

 

タシギは茶褐色にバフ色の模様が入る。それは枯れ草はの中では保護色になる。いわゆるカモフラージュです。水田の土の黒と枯れ草や稲ワラの線状模様がタシギそのものです。自然界では枯れ草や地面を保護色にする。しかし、水路は三面コンクリート化された現在では自然の物だけを対象にしていたら、多分、都市化された農耕地では生活範囲が限られた場所だけになってしまう。彼らは都市化と共に進化した。彼らの餌となるアカムシ、ユスリカの幼虫は都市化された水路の汚泥に沢山居る。これをタシギは見逃す事は無い。三面コンクリート水路には植物の定着は極めて稀にである。しかし、底には泥が堆積し、ドジョウ、エビ、ヤゴなどの水棲生物の宝庫になっている。厳冬期の乾季でも、一部分が湿地で残っている。コンクリート化されない水路は干上がっている。流れの無い水路は乾季には干上がる。コンクリート底は水を逃がさないから少しの雨でも湿地を維持する。ここがポイントになる。

ある日のこと、水路で採食するタシギを見た。水路には空缶、ペットボトル、弁当容器、レジ袋、農業用ビニール、肥料袋、ポリバケツ青などかある、勿論、枯れ草などが底や壁面にもある。水路は510センチ程度の水深があり、泥や水草などが生えている。タシギの採食には最適環境になる。人がよく通過する。人がタシギの側を通過してもタシギはちょっと警戒するだけ、タシギを覗いたりすると近ければ飛び立つ。少し離れていればタシギは壁にピタリと着いてしまう。壁は影の方が好まれる。枯れ草などが無いとどうするか、身近にある空缶、農業用ビニール、ペットボトル、レジ袋、弁当容器などに身を寄せる、傾向は日影を好む。ポリバケツなどは青とのコントラストが激しいがタシギは全く動ずる事無く擬態する。最終レベルでは身を伏せるだけに止まらず、身体の半分は水没させてしまう。ある日の事、水路の真ん中で採食していた、観察者に気がついた、次の瞬間には水中に沈めた、ニアミスだ、目を離した瞬間にタシギは瞬間移動した。瞬間移動はニアミスで互いにフリーズする、目は合ったまま、観察者は次の行動をしようと目を離した瞬間にタシギは移動、飛び立つか速足で隠れる。つまり観察者は見失ってしまう。これが瞬間移動です。筆者は何度も経験している。おそらく誰かが同じ経験をしている。がその行動をどこまで深く感じたか否かの差が大きい。何年も観察していると、ニアミスはあるし、その次の行動は予測されているのに罠に嵌まってしまうのです。

こんなエピソードが数多くなるように地道な観察を重ねて行きましょう。擬態という行動だけでも新しい発見につながる。たった一度が重なり発見につながった例でした。

 

ベテランに共通な事は全体的に観る力量が備わっている事だと思います、筆者も早くベテランの側に一歩でも近づきたいと思うのです。

 

20220705完結。

 

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